
- 2025.06.04
従業員の休業補償とは?会社が知っておきたい知識をわかりやすく解説
経営者の皆さまにとって、従業員が健康で安全にいきいきと働けているかどうかは、なによりも重大な関心事でしょう。
ですが、従業員も時として会社を休業することがあります。中には休業が長引くケースもあり、会社としても対応に頭を悩ませることは少なくありません。また、休業にいたる経緯もさまざまです。
「従業員が休業しているが、何をすればいいかわからない。」
「制度や手続きについていろいろあるようだが、概要をわかりやすく教えてほしい。」
「休業補償と休業手当は違うのだろうか?」
「休業が労災によるものとそうでないのとでは、手続きや給付の金額が異なるのだろうか?」
「会社の都合で従業員に休んでもらわないといけないときは、どうすればよいか?」
この記事では、そのような経営者の皆さまのお悩みを解決するために、従業員の休業に関する制度や会社の手続きについてわかりやすく解説します。
目次
従業員の休業補償とは?


休業(補償)等給付とは
労働者が仕事または通勤が原因のケガや病気で働けなくなった場合、給与の代わりに国の労災保険から給付を受けることができる休業(補償)等給付制度があります。
仕事中に起こった災害を業務災害といい、通勤途中に起こった災害を通勤災害といいます。業務災害の被災者に対する保険給付を「休業補償給付」、通勤災害の被災者に対する保険給付を「休業給付」といいます。休業(補償)等給付は、休業日4日目から支給されます。支給額の計算方法については、後述の「1-3 支給される額の計算方法」をご覧ください。
休業の初日から3日目までの3日間のことを「待期期間」といい、労災保険からの支給はありません。待期期間の間は、業務災害の場合、事業主が休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行うと定められています(労働基準法第76条)。
支給の要件
以下の①~③のすべての要件を満たす必要があります(労災保険法第14条第1項)。
① 業務上の事由または通勤によるケガや病気による療養であること
② 労働することができないこと
③ 賃金を受けていないこと
事業主が従業員に平均賃金の60%以上の賃金を支払っているような場合は、③の条件を満たさなくなり休業(補償)給付が受けられなくなるので、注意が必要です。
支給される額の計算方法
休業1日につき、給付基礎日額の80%(保険給付60%+特別支給金20%)が支給されます。
給付基礎日額とは、労働基準法上の平均賃金に相当する額をいいます。
平均賃金とは、原則として、労災事故が発生した日(賃金締切日がある場合は、事故直前の賃金締切日)の直前3か月間に被災労働者に支払われた賃金の総額(ボーナスなどの臨時収入は除きます)を、その期間の暦日数で割った1日あたりの賃金額です(労働基準法第12条)。
たとえば、給与が月30万円の労働者が、6月6日に労災事故にあって休業した場合を考えてみましょう。直前の賃金締切日が5月31日だとすると、3月、4月、5月の3か月分の賃金の合計を暦日数の92日で割ると
30万円×3か月÷92日≒9782円60銭
となり、これが給付基礎日額となります(支給額を計算するときは円未満を切り上げて計算します)。
保険給付(給付基礎日額の60%):9783円×0.6=5869円8銭…①
特別支給金(給付基礎日額の20%):9783円×0.2=1956円6銭…②
① 5869円+②1956円=7825円(①②は円未満切り捨て)
が、一日当たりの給付額となります。
実際には最低保障額なども考慮されるため、必ずしもこの計算式のとおりにならないこともあります。原則として平均賃金の8割が労災保険から支給される、と考えておけばよいでしょう。
請求方法
会社の所在地を管轄する労働基準監督署に、休業(補償)等給付の請求書を提出します。業務災害と通勤災害で様式が異なるのでご注意ください。
事業主は、労働者が事故のため自ら保険給付の請求その他手続きを行うことが困難である場合には、助力する義務があります(労災保険法施行規則第23条第1項)。また、請求書には事業主証明欄があり、事業主は証明を求められたときは速やかに証明をする義務があります(同条第2項)。
請求が認められれば、労災保険から労働者本人に休業(補償)等給付が支給されます。
通常は支給されるまで約1カ月程度かかりますが、精神疾患や脳・心疾患その他労働災害の認定判断が難しいケースは、支給(不支給)の決定までに時間がかかることが通常です。
労災以外のケガや病気で休業するとき
では、従業員が労災以外のケガや病気で休むことになった場合は、労災保険に代わる制度はあるのでしょうか。
ケガや病気で休業中に健康保険の被保険者とその家族の生活を保障するための制度として、傷病手当金という制度があります。ケガや病気で会社を休むこととなり、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。
傷病手当金の申請
傷病手当金は、被保険者がケガや病気で働くことができず会社を休んだ日が連続して3日間あったときに(この期間を「待期」といいます)、4日目以降、休んだ日に対して支給されます。
労災保険の待期期間の3日間は連続している必要はなく通算で数えますが、傷病手当金の待期の3日間は連続している必要があります。
〈傷病手当金の支給要件〉
以下の①~④のすべての要件を満たす必要があります(健康保険法第99条)。
① 業務外の事由によるケガや病気の療養のための休業であること
② 仕事に就くことができないこと
③ 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
④ 休業した期間について給与の支払いがないこと
休業中、労働者が無給であれば、過去12カ月間の標準報酬月額の平均額の30分の1に相当する額の3分の2が、傷病手当金として支給されます。簡単にいうと、今までの給与日額の3分の2の額がもらえるということになります。
仮に給与の支払いがあった場合でも、傷病手当金の額よりも少なければ、その差額が支給されます。
支給期間は、支給を開始した日から「通算」して1年6カ月です。令和4年1月1日より、「最長」ではなく「通算」に変わったので、途中で就労した場合の期間は支給期間にカウントされません。より受給者に有利な制度になったといえます。
健康保険関連の届出は、保険者が、協会けんぽなら日本年金機構の出先機関である年金事務所へ、保険者が健康保険組合なら健康保険組合へ申請します。
休業(補償)等給付と傷病手当金の関係
過去に労災保険から休業(補償)等給付を受けていて、休業(補償)等給付と同一のケガや病気で労務不能となったときは、傷病手当金は支給されません。
また、業務外の理由によるケガや病気で労務不能となった場合も、別の原因で労災保険から休業(補償)等給付を受けている期間中は、傷病手当金は支給されません。ただし、休業(補償)等給付の日額が傷病手当金の日額より低いときは、その差額が支給されます。
「業務災害だったけれど労災保険の申請をせずに傷病手当金を受給していた」という場合、労災保険への切り替えの手続きを行わなければなりません。労働基準監督署で労災保険を申請し、休業(補償)等給付の支給が認められたら傷病手当金は返却します。加入している健康保険組合や協会けんぽに業務災害であることを報告し、書類を提出して返金の手続きを行います。
逆に「労災保険の給付を請求していたけれど不支給決定された」という場合には、加入している健康保険組合または協会けんぽに傷病手当金の申請をすることができます。
休業(補償)等給付や傷病手当金はいずれも非課税所得であり、所得税は課されないことも知っておきましょう。
労災保険と健康保険、どちらで申請すべきか実際には判断が難しいケースも少なくありません。迷ったときは、当事務所にご相談ください。
休業手当との違い
労働基準法26条には「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と定められています。この手当を「休業手当」といいます。
「使用者の責に帰すべき事由」、つまり会社の都合で労働者を休業させたときには、労働者の最低限の生活の保障を図るため、使用者は平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません。働いていないのだから給料を支払わなくてもかまわない、ということではなく、休みが会社の都合である以上は一定程度の賃金を保障する必要があります。
会社の都合で労働者を休業させているといえるか、つまり、会社が従業員に休業手当を支払うべきか否かは、実際にはケースバイケースとなります。
たとえば、自然災害による業務停止や、新型インフルエンザ等対策特別措置法適用下で協力依頼や要請などを受けた営業の自粛に伴う休業など、不可抗力による休業の場合は会社の都合に当たらず、 使用者に休業手当の支払義務はありません。
ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること の2つの要件を満たすことが必要とされています。
たとえば、在宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることができるにもかかわらず、これを十分検討するなど休業の回避について使用者として最善の努力を尽くしていないと認められた場合 には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、 休業手当の支払が必要となることがあります。
休業手当の支払いが必要か否かは、管轄の労働基準監督署に問い合わせて確認することがもっとも確実ですが、会社としては、不可抗力が起こったときに、まずは従業員が継続して就労できる方法がないかを検討しましょう。
なお、従業員に休業手当を支払った上で雇用維持を図ろうとする場合、雇用調整助成金の活用が可能となる場合があります。助成金制度の対象となるか否かは、最寄りの労働局及びハローワークにお問い合わせください。
参考情報:雇用調整助成金 |厚生労働省
会社から休業中の従業員へ手当を支給したいとき
会社から休業中の従業員へ何らかの手当を支給したいと考える企業もあるでしょう。
休職制度について法律上の規定はありませんが、使用者が休職に関する定めをする場合は、労働契約の締結に際し、従業員に「休職に関する事項」を明示しなければならないと定められています(労働基準法第 15条第1項、同 法施行規則第5条第1項第11号)。休職中の手当など、休職に関する制度を定める場合は就業規則等に定めておきましょう。
もっとも、従業員の休業中に賃金が支払われたとみなされると、労災の休業(補償)等給付や傷病手当金が受けられなくなる(または減額される)ため、注意が必要です。
また、会社が休職者に賃金を支払うことで、働いている他の従業員から不満が出ることも考えられます。就業規則にこれらを定める際には、他の従業員との公平性や会社に生じる負担にも配慮しつつ、慎重に検討することが大切となります。
休業中の従業員へのサポート
休業中の従業員は、症状が重いほど、また休業が長引けば長引くほど、仕事復帰への不安を抱えるのが通常です。最初は身体的な症状であったものが、二次的災害として精神的な疾患を発症し、結果として休業が長期にわたることも少なくありません。このようなことが起こる前に、会社は従業員に対し、手続き面や生活面、心身のサポートを早期にスタートさせましょう。
〈手続き面や生活面のサポート〉
労災保険の休業(補償)等給付や健康保険の傷病手当金などの公的給付金を請求するにあたっては、手続きに詳しくない労働者本人に代わって、会社が手続きを主導することが望ましいといえます。労働者自身の請求が困難な場合に事業主に助力義務がある(労災保険法施行規則第23条第1項)ことからも、会社には、手続きをサポートし労働者の生活の早期安定を図る努力が望まれているといっていいでしょう。
〈心身のサポート〉
労働者本人に、経済的保障の各種制度、相談窓口、職場復帰支援、休業の最長期間等について十分な説明を行うとともに、主治医から症状についての診断書や職場復帰への意見書をもらうこと、産業医がいる場合には産業医と連携して休職者の心身のケアや復職の時期をはかること等が大切です。
従業員には定期的に産業医の面談を受けてもらい心身の状態を把握するとともに、産業医には会社の求める業務遂行能力を伝えた上で、適切な復職時期や労働条件について助言を受けましょう。
診断書や助言をもとに、会社の産業保健スタッフ、管理監督者、労働者本人で連携をとりながら、職場復帰支援のためのプランを作成します。従業員の健康状態や希望に応じて、試し出勤期間の設定や軽作業への転換、勤務時間の短縮・変更等、就業上の配慮が必要となる場合もあるでしょう。
職場復帰後は管理監督者の観察や支援、産業保健スタッフによるフォローアップを実施し、職場復帰支援プランの評価や見直しを行うことも大切です。
〈留意点〉
強引な復職命令や配置換えが労使間のトラブルの元となったり、心身が回復不足の状態で復職させたために最悪の事態を招くケースは少なくありません。
また、働けないからと言って従業員を解雇することは、法律に抵触する場合があります。従業員が労災で休業している場合の休業中と職場復帰後30日間は、原則として事業主は従業員を解雇することはできません(労働基準法第19条)。
最悪の結果や法律違反を避けるためにも、産業医や弁護士など専門家を活用しながら、慎重に職場復帰支援を行っていきましょう。
特に近年は、心の健康問題により休業する労働者への対応が、会社にとって大きな課題となっています。令和4年「労働安全衛生調査」によると、職業生活等において強い不安やストレス等を感じる労働者は約6割に上っており、また、 メンタルヘルス上の理由により過去1年間に連続1カ月以上休業した労働者の割合は0.6% となっており、事業所規模が大きくなるほどその割合は高くなっています。
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弁護士 小野 智博弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業顧問を専門とし、社長からの相談に、法務にとどまらずビジネス目線でアドバイスを行う。
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約書をレビューする「契約審査サービス」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」