
- 2024.06.10
法律を使って利益を増やすことはできますか?(戦略法務の具体例と予防法務・臨床法務との違いを解説)
目次
戦略法務って何ですか?
(戦略法務の内容と、求められる理由、臨床法務・予防法務と戦略法務の違いと関連性)
法律を使って利益を増やすことはできますか?という社長のご質問に対し、弁護士がお答えします。戦略法務について、具体例と会話形式でわかりやすく解説します。




たとえば、T社長が、新しい事業を始めたいと思ったり、これから海外の会社とも取引しようと思ったとします。これらは新しいことへ挑戦ですので、どこにどんなリスクがあるかが分からないと、ためらってしまうこともあるかと思います。
そのほかにも、他社との合併や買収を進めるなど、会社が大きくなっていくための色々な場面で、法律の知識が必要になりますので、同じことが言えますね。
でも、もし、このリスクを減らせるなら、安心して新しいビジネスに勇気をもって挑戦でき、会社もしっかりと成長できるんです。




① 会社として、どんなビジネスを目標とするのかを、できる限りはっきりとさせる。
② ①のビジネスを進める上で、どこにどんな法的なリスクがあるのかを明らかにする
③ ①のビジネスの目標に合わせて、②のリスクをどう解決し、また管理していくのかについて、丁寧に戦略を練って、計画を立てる
会社の中には、営業『部』と法務『部』などのように、法務部を各種部門から独立させて配置する所もありますが、戦略法務を正しく行うには、法務担当は『会社がどんなことをしたいのか』をきちんと理解しておくことがとても大事なんですよ。
ですから、他の部署ともしっかりと連携して、会社全体を意識しながら、戦略法務を行っていく必要があります。つまり、みんなで力を合わせてリスクを減らしていくわけですね。




- 予防法務、臨床法務とは
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会社の法務(企業法務)には、『戦略法務』の他にも、『予防法務』、『臨床法務』という2つの大切なポイントがあります。まず、戦略法務とは、会社がビジネスを広げて、利益を増やすために、法律をうまく活用することをいいます。これに対して、予防法務とは、病気に例えると、風邪をひかないように予防接種をするようなもので、トラブルが起きないようにするための手段です。そして、臨床法務とは、病気になった後の治療のようなもので、すでにトラブルが起きてしまった後に、それを解決するための手段になります。予防法務の例として、契約書のチェックや社内ルールを整えること、臨床法務の例として、クレームや訴訟に対応することなどがあります。これらの3つの法務を、上手に連携させることで、戦略法務の効果をより高め、会社の利益を増やすことにつなげることができます。
戦略法務を使って利益を増やすことはできますか?
(戦略法務の重要性とメリット)


市場のグローバル化

インターネットの発達によってEC取引が増えて、海外の顧客にアプローチするのが前よりもずっと簡単になりました。ですが、それぞれの国には異なる法律や規制があり、これに違反してしまうと、取引中止になったり、会社に罰金が課せられることもあります。
また、海外の法律の中には、海外に直接会社の拠点(支社など)がなくても、その国の会社や顧客と取引をしていれば、適用されてしまうものもあります。
いずれにせよ、海外のお客さんと取引するときは、どの国のどの法律が適用されうるかについて、しっかりと調べて把握しておかないといけません。


ですから、国内の法律についてもしっかりとチェックしておき、これらの法律に変更があれば、迅速に対応できるようにしておきましょう。

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最近は、インターネットを利用して取引することが増えています。一方で、特定商取引法や景品表示法、個人情報保護法などの法律の内容が改正し、インターネット取引に際し、注意すべきポイントが変わった所もあります。これらの法律に違反すると、ビジネスに直接影響が出てしまうこともありますので、専門の弁護士への相談や行政への問合せなどの活用も視野に入れておくとよいでしょう。
金額や規模の大きい取引の増加
これらの取引は、会社を今よりも、もっと強くしていける方法の1つです。
たとえば、T社長の会社が、他の会社のもつノウハウ・技術と自社のノウハウ等を組み合わせるとパワーアップできそうなら、その会社と合併すれば、新たな人気商品を生み出せるかもしれません。また、これから人気が出そうな商品について、一気にシェアを獲得したいときは、工場を買収しておくと、在庫切れのリスクを減らすことができ、シェア獲得に近づくことができます。
もっとも、大規模取引においては、双方で取り決めておくべき事項が多く、その内容も複雑になりやすいので、その分、契約書のチェックが難しくなります。
また、M&Aには、会社を強くする反面、相手の会社のリスクも一緒に取り込むというデメリットがあります。そのため、会社にとって将来不利益になりうるリスクをきちんと整理した上で、『どのタイミングで、どのような内容やリスクヘッジをして』M&Aを行うべきかを検討していく必要があります。
会社の戦略法務が充実していると、こうしたリスクを事前に分析し、適切に取引を進めることができます。これにより、会社は安心して大胆なビジネス戦略を立てることができるんですよ。



戦略法務では例えばどんなことをしますか?
(戦略法務の内容と具体例一覧)


新規取引・新規事業のリスクチェック
たとえば、新しい商品やサービスを市場に出すときに、それが既存の法律や規制に触れていないか、また新しい取引先との契約が会社にとって不利になっていないか、しっかりチェックすることです。
その他にも、特に新規事業を展開するときには、市場のニーズや競合状況をよく知っておかないと、せっかく展開しても思うように利益を上げられず、悪いときは撤退することにもなってしまいます。
ですから、戦略法務レベルでは、法的なリスクチェックに加えて、市場のこともしっかりと調べて、予定する新規取引や新規事業が本当に会社の利益を増やせるのかを、検討しないといけません。
これらにはやや手間がかかりますが、適切に行っておくと、後々のトラブルを避けられますし、新しく挑戦した事業で順調に稼ぐことができたり、お客さんとの信頼関係をもっと強くしていけるので、会社にとって心強い追い風になります。

海外取引のサポート
日本でも色々な法律があるように、それぞれの国にも別の法律がありますから、現地の法律に違反しないようにしておく必要があります。
また、日本と海外とでは文化や言語の違いがあるので、同じ言葉でも双方の認識にズレが生じ、トラブルになってしまうこともあります。特に、その取引の中で譲ることのできない所については、できるだけ、双方にとってはっきりとした内容で取り決めておくことが大切です。
ですから、英文契約書のレビューや現地法規制のチェックは、とても大事です。
分からない所があれば、すぐに専門の弁護士や現地の弁護士に相談するといったように、フットワークを軽くしておきましょう。



技術等の権利化
(知的財産の積極的活用)
たとえば、T社長の会社で、自社の技術等について、特許や商標を取得したり、著作権などを活用すると、ライバル会社が無断でマネをしてくるのを防ぐことができます。そうすると、会社のオリジナリティーを高められるので、ライバル会社との差を生みだし、さらなるシェアを獲得できる可能性もあるんですよ。
また、これらの権利の一部を、他の会社に貸して、お金を稼ぐこともできます。
ただし、むやみに権利化を乱発すると、特許料などのコストがかさむ一方、このコストを回収できず、会社が損をしてしまうケースもあります。
ですから、権利化しようとする技術等が、消費者にとってニーズのあるもの(またはそのニーズを満たすのに役に立つもの)で、かつ、ライバル会社にとっても魅力的なものであるかについて、しっかりと考えておくことが、とても大切なポイントになります。

行政への問合せ
たとえば、新しいビジネスモデルが法律や規制に合わないときに、国に法改正を働きかけることで、そのビジネスを実現するなどがあげられます。近年では、サンドボックス制度によって、新しいビジネスモデルを実現するためのハードルが下がりつつあります。

- サンドボックス制度とは
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サンドボックス制度は、新しいビジネスや技術を促進するための仕組みです。この制度の目的は、事業者の考える新しいビジネス等について「まずやってみる」ことを推進することです。申請後に国が認定すると、国から一時的にテスト環境を提供してもらえます。これらの実証試験から得られた情報や資料については、対象となるビジネス等をスムーズに行えるよう、法改正や規制改革のために活用されます。法施行以降、モビリティ、IoT(インターネット・オブ・シングス)、FinTech(金融技術)、ヘルスケアなど、多岐にわたる分野で、合計23の計画に142の事業者が参加し、認定を受けています。
戦略法務は社内の誰に任せればよいですか?
(戦略法務の法務部担当者に求められる資質)



経営目線+法的知識

経験・思考力
さらに、最近は、企業の規模に関係なく、新しいことに挑戦していこうとするトレンドがあります。新しいことに挑戦すれば、これまでにない法律問題に直面することも増えます。
ですから、新しいことを「好き」と言えたり、物事を丁寧かつ柔軟に考えることのできることも、とても大切なポイントになると思います。

大局を見る目
こういったことは、よりよいビジネスにしていくためのアイデアのネタになったり、見落としに気づかせてくれるアラームの役割にもなりますので、経営陣にとっても嬉しいことなんですよ。


戦略法務を弁護士に相談することはできますか?
(外部弁護士に依頼することのメリット)

でも、戦略法務には、深い法律知識や経験、専門性が求められますので、適切な検討ができないリスクがあります。また、社員さんの気持ちにしてみると、社長さんや役員さんに対して、ストレートに意見を言いづらい所もありますよね。
会社の経営がうまくいくかどうかの1つのポイントして『初動の適切さ』が挙げられます。例えば新規事業の最初の検討のときに、戦略法務として問題となる点の洗い出しが足りなかったり、十分な検討ができなかったり、共有すべきことが伝えられなかったりすると、『初動の適切さ』を失ってしまい、会社がその新規事業で思うように利益を増やせなかったり、運が悪いと予想外の損害を受けてしまうことも想定されます。

でも、取引の内容や会社のビジネスプランによっては、外部の弁護士に開示できる情報が少なくなってしまうときもあり、外部弁護士にとっても判断の難しいときもあります。ですから、このようなときは、外部弁護士からのアドバイスを参考にしながら、さらに社内で検討を進めることが必要です。
シンプルに言うと、外部リーガルと社内の経営陣や法務担当者をうまく連携させながら、経営戦略を練り上げていくことが、とっても大切なんですよ。

まとめ



この記事の内容は、「わかりやすさ」と、「要はどうすれば良いか」にフォーカスして作成しています。そのため、細かい部分は法律の教科書的な内容とは違う場合があります。このような目的をご理解のうえ、お読みいただければと思います。社長の実際のお悩みを解決するために、ぜひ専門家にご相談ください。
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弁護士 小野 智博弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業顧問を専門とし、社長からの相談に、法務にとどまらずビジネス目線でアドバイスを行う。
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約書をレビューする「契約審査サービス」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」