
- 2024.06.07
わが社に取締役会は必要ですか?(「取締役会」の決議事項や設置義務、開催方法など基礎知識を分かりやすく解説)
取締役会と株主総会はどう違う? そもそもうちの会社で取締役会の設置が必要なのか? どのような決議事項を扱うことになるのかいまいち分からない……など、取締役会についてお悩みの社長様に、
「日本一わかりやすく」をモットーに、弁護士が会話形式でイチから解説します。
目次
「取締役会」はどんな会社に必要ですか?
(設置のルールと取締役会の役割)





『取締役会』というのは、簡単に言うと会社の経営についての意思決定を行うための機関ですが、仰るとおり株主総会とはまた別のものです。
まず『株主総会』のほうからおさらいしておくと、株主総会はその名のとおり、株主側が持っている権利というものが会議の中心となっていて、会社側は株式会社の責任として、それに対応しているというようなイメージですね。
御社でもきっと、株主を召集したうえで、会社側からいろいろ経営の現状を報告したり、株主側からの質問に答えたりしていると思います。そういった流れのなかで会社の基本的な運営方針を今後どうしていくかといったことや、役員を誰にするか、この役員は解任すべきではないかといったこと、そのほか株主の利害に関係する議題などを取り扱っていますよね?






はい。ポイントは、会社の定款上の記載です。定款は、商号や所在地・基本規則や株式に関する取り決めなど諸事項がまとめて記載されていて、法務局や公証人に内容を見てもらって既に認証してもらっている『その会社のルールブック』のようなものですよね。この定款上で、株式の譲渡制限についての定めを特にしていなかったり、一部の株式だけでも自由な譲渡を許可していたりする場合には、御社は『公開会社』という区分になります。
たとえば、会社が発行するすべての株式について、『譲渡による株式の取得には、うちの会社の承認が必要ですよ(勝手に譲渡してはいけませんよ)』という決まりごとを記載しているのならば、御社は公開会社ではないということです。
逆に『株数に関係なく、譲渡制限がありませんよ、自由に譲渡できる株式を発行できますよ』という決まりや、『基本的には譲渡を制限しているけれど、一部の条件に当てはまった株式だけは会社の承認なしで譲渡してもOK』のような決まりを定款で定めている場合には、御社は会社法上では、公開会社に当てはまっているということになります。
つまり起業して間もない会社であっても、定款の内容次第では公開会社となっている可能性がありますね。






もちろんです。『取締役会』は3名以上の取締役で構成される機関で、会社の経営に関する重要な意思決定を行ったり、各取締役がきちんと職務を執行できているかを見張ったりします。
先ほどの『株主総会』でも意思決定や役員の進退について取り扱うと説明しましたが、株主総会が基本的事項についての大きな意思決定を行い、それに基づいて取締役会が、実際の会社の経営にそって事細かに決定をしていくというイメージですね。株主が定期的に集まりつつ『誰に会社の経営を任せるか、基本的な方針はどうするか』を決め、そして任された取締役たちで構成される取締役会が、『株主総会の決定どおりにすべてが進んでいるか?』をチェックしながら具体的な監査や運営を行っていくということになります。


はい。株主総会は年に1回(以上)ですが、取締役会は原則3か月に1回(以上)開催、というように定められています。株主が集まる株主総会とは違って、取締役会は構成員となる取締役が集まったうえで開催されます。
取締役会を構成する取締役は、最低でも3名以上必要になります。また、そのなかの最低でも1名が『代表取締役』、つまり法的に会社を代表するトップの取締役となりますが、どの人を代表取締役にするのか、また代表取締役を解任したり新しく選定したりといったことも、取締役会のなかで決議する必要があります。取締役会を設置していない会社であれば、代表取締役を選んでいなければ、各取締役が代表取締役としても扱われることになるため、その点が取締役会がある場合とない場合の違いのひとつとなりますね。


はい、法的にそういう理解となり、すべては取締役会の決議次第ということになりますね。一般的に、社長やCEOがそのまま代表取締役となるケースが多く『代表取締役社長』や『代表取締役CEO』といった肩書もよく耳にすると思いますが、一方でたとえば
『代表取締役会長』や『代表取締役専務』といった肩書も世間に存在するのは、代表取締役を必ずしも社長が務めるわけではないこと、また何人いても良いということが関係しているのです。



- ご説明した各事項について、さらに詳しく知りたい方はぜひリンクから会社法を参照ください。
-
取締役会の設置義務がある会社の種類(会社法326条2項、327条1項)
- 公開会社
- 監査役会設置会社
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
取締役会の構成(会社法331条5項、327条2項)
- 取締役3名以上
- 監査役1名以上 ※委員会設置会社の場合は不要
取締役会の役割(会社法362条1項、2項)
- 取締役会設置会社の業務執行の決定
- 取締役の職務の執行の監督
- 代表取締役の選定および解職
リンク:e-Gov 法令検索
取締役会を設置するメリットはありますか?

分かりました。メリットとして挙げられるのは、まず、会社の重要な事項について、スピーディな意思決定がしやすくなるという点があるでしょう。年1回の株主総会と違って取締役会は短い間隔で開催できるため、運営方針の細かな部分の再検討、軌道修正などがこまめに行いやすくなります。
また、もうひとつの大きなメリットとして、対外的な信用を得られやすくなるという点があります。T社長が仰ったようにある意味『面倒』な部分を乗り越えてでも取締役会をきちんと設立しているということは、つまり『取締役が独断であれこれ決めているわけではなくて、取締役会でしっかりと議論して、しっかりと監督していますよ』というアピールにもなりやすいのです。取引先の企業さんや、融資を受ける金融機関などからの信用も得られやすくなる可能性があります。たとえば世間一般的には、上場を目指していたり、将来的に大きな資金調達をする予定がある、事業規模拡大や大きな取引を狙っている場合などに、先を見据えて取締役会を設置しておくという会社も多いですね。




続いて取締役会を設置することによるデメリットのほうですが、まずは現実的なところとして、『役員報酬がかさむ』という点があります。お伝えしたように取締役会を設置するには最低でも取締役3人と監査役1人が必要ですので、つまり最低4人分の役員報酬がかかっていくということになります。たとえば売上が安定していない、利益が少ないといった状態では厳しい要素となるかもしれません。
また、たとえば今までは一人社長の状態で自由気ままにやっていたという場合には、窮屈さを感じることになるかもしれません。3か月に1回以上の取締役会開催ごとに、細かな資料の用意や議題検討といった準備、開催後の議事録の作成などの手間の負担も当然かかることとなります。ただ、会社の規模や売上が大きくなってきている場合には、そのようなしっかりした組織づくりをして、ふさわしい人に役割をお願いすることで、社長の負担は減っていくはずです。

取締役会で決めることは何ですか?
(取締役会の具体的な「決議事項」)

取締役会での決議事項は、会社法で定められています。単純に、取締役会で決議することが可能となっている内容という面で考えると、イメージとしては『株主総会での決議が必要であると定められている事項』以外の、会社運営に関するあらゆる事項を決議できるというふうに考えてもらって大丈夫です。しかしここでは、そんななかで『取締役会を設置している場合、取締役会で必ず決議をしなければならない内容』、つまり取締役会の外では決議できない内容についてご説明しましょう。
ちなみにこれから説明することはあくまで会社法上で定められていることになりますが、これに当てはならない事項でも、会社の定款で『取締役会で定める』と決めていたことがあれば、それも従わなければならないという点は覚えておいてくださいね。


まずは、会社にとって重要となる財産を処分する際や、逆に重要な財産を他者から譲り受ける際の決議です。たとえば、事業用として買っておいたけれど、事業変更などで使わない状態になってしまった大きな土地を処分したい場合がこれに当たりますね。
また、事業立て直しや事業拡大のために銀行から多額の融資を受けたい場合なども、可否をまず取締役会で決議しておく必要があります。


いえ、実はその点は、会社法で明確に判断基準などが定められているわけではないのです。単純に額面や規模だけで決まるのではなく、会社の総資産などの事情に照らして、取締役会での決議事項にするべきかどうかを、きちんと自分たちで検討していくというイメージになりますね。
ご参考までに過去の判例としては、たとえば会社の総資産の1.6%ほどに相当する株式を譲渡したケース、なおかつそういった譲渡が通常の営業時には行われていなかったというケースで『重要な財産の処分であった』と判断されたケースがあります。


仰るとおりですね。また、代表取締役の選任が取締役会で決議されることはすでにお伝えしましたが、そのほかに支配人など重要な使用人の選任や解任であったり、たとえば支店など会社にとって重要な組織を新たに設置・廃止したりする場合も取締役会での決議が必要です。
また、資金繰りのために債券を発行して、その債券を購入してくれる人を募集したり勧誘したりする場合や、種類株式の内容の決定・株式の分割・自己株式の取得価格の決定などの株式関連の事項も取締役会での決議事項として多くが定められていますね。
取締役会の設置を具体的に検討する際には、会社法で取締役会の決議事項をしっかり確認しておくと良いでしょう。



- ご説明した各事項について、さらに詳しく知りたい方はぜひリンクから会社法を参照ください。
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会社法で定められた取締役会の決議事項(会社法362条4項)
- 重要な財産の処分および譲受け
- 多額の借財(借金や融資)
- 支配人その他の重要な使用人の選任および解任
- 支店その他の重要な組織の設置、変更および廃止
- 第676条に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集社債に関して法令に定められた重要な事項
- 取締役の職務執行や会社の業務執行などが適正であることを確保するために、法令によって定められた体制の整備
- 定款の定めに基づく役員などの会社に対する責任の免除
リンク:e-Gov 法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086
取締役会はオンラインでも良いですか?
(取締役会の開催方法)





はい。そのあたりは現実的に遂行できるよう、ある程度柔軟になっています。株主総会の場合は取締役が出席を第三者へ委任することもできるのですが、取締役会ではそういったこともできませんので、なおさらですね。
ご参考までに、実際に取締役が当日に必要数参加できなくても、取締役会で決議したとみなされる『書面決議』という方法もありますよ。流れとしては、あらかじめ取締役の1人や一部が決議事項を提案しておいて、その提案に同意しますよということを取締役全員が書面やデジタル記録で示す、というかたちになります。
ただしこの方法は、徹底的に議論を交わしつくせる手段とは言えませんので、たとえば一部の取締役から反対意見が出そうな議案、議論が活発化しそうな議案などを取り扱う場合には、不適切と考えておいたほうが良いでしょう。


『開催日の一定期間前』というのも、原則としては開催日の1週間前となりますが定款でそれよりも前や後に召集する旨を記載している場合は、そちらに従います。

- ご説明した各事項について、さらに詳しく知りたい方はぜひリンクから会社法を参照ください。
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取締役会の開催方法(会社法370条)
- オフライン開催
- オンライン開催
- 書面決議(電子メール等の電磁的記録も可)
リンク:e-Gov 法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086
取締役会が必要かどうかは、定款やルールを確認しましょう。取締役会を設置する場合は、決議すべき内容を把握しておくことが重要です。
これまでお話したように、取締役会の設置はすべての株式会社で必ずしも必要ではありません。御社のケースでは、公開会社でもなくそのほかの条件にも合致しないため、すぐに設置する必要はなさそうですね。
将来的に取締役会を設置するかどうかについては、諸条件や設置後の義務など、会社法に照らし合わせたうえで慎重に検討することが大切です。
取締役会を設置すると、それまで社長が一人で決めていたことも、役割が分担され、責任ある役員が協議していくことになります。社長個人の負担は減り、より組織的な経営ができるようになりますので、ぜひ検討してみてください。



■この記事の内容は、「わかりやすさ」と、「要はどうすれば良いか」にフォーカスして作成しています。そのため、細かい部分は法律の教科書的な内容とは違う場合があります。このような目的をご理解のうえ、お読みいただければと思います。社長の実際のお悩みを解決するために、ぜひ専門家にご相談ください。
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弁護士 小野 智博弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業顧問を専門とし、社長からの相談に、法務にとどまらずビジネス目線でアドバイスを行う。
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約書をレビューする「契約審査サービス」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」